山の恵みをみんなに見せたい人
本稿は、「真室川での暮らしを楽しんでいる人」を紹介するシリーズ企画の、記念すべき1回目の記事です。
最初に登場いただくのは、「山の恵みをみんなに見せたい人」沓澤康平さんです!
沓澤康平さんを取材した動画はコチラ!
取材のキッカケは織田家具店さんからのご紹介
雪道でも滑らない歩き方を教えてくれた織田さんが、「こんな面白い人がいるよ」と紹介してくださったのが沓澤さん。沓澤さんから依頼された木工の仕事がユニークで、強く印象に残っていたそうです!
沓澤さんは、自家用に瓶詰の山ぶどうジュースを作られているそうです。
最終工程で瓶を脱気処理するのですが、鍋底に直に瓶を載せるわけにもいかず毎年試行錯誤しながらも悩みの種を抱えつづけていたのだそうです。
そこで沓澤さんは、建具の製作や補修をされている織田家具店さんに、大きな鍋にピッタリあう底板と蓋の製作を依頼してきたというのです。
「面白い注文だよね!」と織田さんはエピソードを紹介してくださいましたが、注文を受けたときはきっと驚かれたことでしょう!笑
織田さんが「面白い人」と紹介してくれた沓澤さんを訪ねて、ご自宅にお邪魔してきました。
沓澤さんは山の恵みをみんなに見せたい人
自然が大好きという沓澤さんのお宅にお邪魔してまずビックリしたのは、家の前に大きなブナの林があったことです!
しかも、その木陰は憩いの場に整えられているじゃないですか!!
45年ほど前にブナの苗木を見つけた沓澤さんは、衝動的に7本の苗木を買い求め、ご自宅の庭に植えたんだとか。
このブナの林は、今や沓澤さんにとってとても大切なものになっているそうです。
なぜなら憩いの場となっていることと、もうひとつ、「自分のブナを見るだけで山の様子を想像できるから」と沓澤さん。
ブナは、その生態として、実がよく稔る豊作の年と、あまりならない凶作の年があります。
家の前のブナと、山のブナでは稔る実の豊作と凶作が重なることが多いのだそうです。
だから、豊作の年にはブナの実を餌にする熊も沢山の餌にありつけるなと安心し、凶作の年にはお腹を空かせないかと心配になるんだって。
ブナの実が凶作の年はお腹を空かせた熊が里に下りてきやすくなるため、不幸な出会いをしないように注意する必要があるそうですよ。
また、沓澤さんのブナ林の木陰には、様々な山野草が植えてあるそうです。知人の裏山から株分けしてもらったクマガイソウやシラネアオイ、萩などなど。
しかも、ブナの木陰は植物にとっても心地よい環境なのか、いろんな種が飛んできて自生してしまうそうです。「いつの間にかウドやヤマユリ、山椒が生えていたよ」と笑いながら紹介してくださいました。
きっと自然が大好きな人間たちも集まってきてそうですね!笑
山ぶどうジュースのこと
山ぶどうとの出会いは、「買いませんか?」とかつての職場を訪ねて来た方が生果を持ってきた時だそうです。購入してみた沓澤さんは、「真室川の山で自生する果実」の魅力に憑りつかれていき、気が付けば色々な加工に挑戦したり勉強するようになっていたそうです。そのうちに苗を植えたらどうか?という話が出て、とうとう自分で苗を植えるまでになっていたんだそうですよ!
山ぶどうを育てるようになったのは、果実を得るためだけではなかったそうです。
「山奥に自生して簡単には見ることができない山ぶどうだけど、家に植えたら都会からきた人にもすぐに見てもらえると思った」と沓澤さん。沓澤家には昔から訪ねてくるお客さんが多かったそうですが、真室川の自然の豊かさや、そこから得られる恵みも紹介したかったようです。
自宅の裏庭で育てている山ぶどうは、オス・メス各一本ずつ。
昨冬の雪で棚が壊れてしまったそうで、今春直したばかりという棚はとても頑丈そうでした。また、山ぶどうで垣根を作ろうと思い、メスの苗木を2本植えたとのこと。
沓澤さんの山ぶどうとの付き合いはまだまだ続きそうです!
自然の恵みや面白さについて楽しそうに話してくれる沓澤さんには、四季のサイクルに合わせてやらなければならないことが沢山あるそうです。取材に同行してくださった昔から沓澤さんを知る方は、「現役の頃より忙しそうですね。それは時間が足りないなぁ!」と感嘆し、沓澤さんと2人で笑っていました。
沓澤さんの一年のサイクル
四季の恵みを楽しまれている沓澤さんに、どのように過ごされているのか一年のサイクルを訊いてみました。
春
雪が溶けると、まず庭の土のお手入れ。晩秋に仕込んでおいたブナの落ち葉で作った堆肥を使います。
5月のゴールデンウィークの頃から山菜採り。家のすぐ前でとれるというフキや、家の裏で採れるアイコだけでなく、山に分け入って山菜を採ります。採ってきた山菜やタケノコは、屋外にしつらえたカマドであく抜きしたり、瓶詰め加工したり。
畑で栽培している「タラの芽」を出荷しているので、春はホントに大忙しとのこと。
そして一年のうちで最も忙しくなるのが、初夏の月山竹<がっさんだけ>の収穫。
沓澤さんは、栽培している月山竹を日本一にしたい!と語ります。
沓澤さんの月山竹は太い。親指よりも一回りも二回りも太いにも関わらず根本まで柔らかいので、とても食べ応えがあるとのこと。植えてから3年目の春には、東京・銀座にある山形県アンテナショップにも出荷したことがあるそうです。
月山竹のシーズンが終わる頃、竹の落葉が始まります。集めた竹の葉は、秋に使う堆肥の原料になるそうです。
梅の実も生ってくるので、梅酒や梅干しなど仕込み仕事も欠かせません。
夏
日本一の月山竹を目指すためには「夏の間引きが欠かせない」と沓澤さん。
間引いた竹は、土に分解されやすいようにチップにして竹藪に還元します。
竹藪に機械を持ち込んでチップにしているそうですが、シイタケの廃菌床も堆肥にしているとのこと。シイタケの廃菌床は、元々広葉樹だったので堆肥として最適なんだとか。
月山竹の間引きが終わったら、次は2年後の冬の準備!!!
様々な作業の合間を縫って、大切な、薪ストーブ用の薪の準備が始まります。
薪の素材になるのは、河川の支障木。支障木というのは、河川の管理上支障となる樹木のことで、水害が起きないように河川敷や堤に生えて成長してしまった樹木を県や自治体が伐採しています。
薪割り用の機械をつかってドンドン薪にしていきます。薪は、2夏を越えると燃焼するのにちょうどいい乾燥具合になるそうで、冬を迎える頃には3年分の薪を蓄えているようにしているとのこと。
忙しい日々の合間には、ブナ林の下に親しい人を呼んでBBQを楽しんでいるそうですよ!
秋
山ぶどうの実がなる、お彼岸から9月は、忙しさも本番!
山ぶどうの収穫や選別は奥様が担当されているそうですが、選別された山ぶどうを毎晩毎晩ジュースに加工するのは沓澤さんの役割。
およそ1か月の間、まさに山ぶどう漬けの日々。。
でも、だからこそ、ジュースが美味しくなるんだって!
夜は山ぶどうの作業で手一杯だけれど、昼間は昼間で、ブナの落ち葉を集めて堆肥づくりが欠かせません。寒い地域のブナは、温暖なエリアと比べて葉っぱが大きく、掃除や片付けがとても大変とのこと。それでも、頑張ってこの時期に仕込んでおけば、春には立派な堆肥になっているんだ!とニコニコ笑ってくださいました。
そして、秋と言えばキノコ採り。自宅のブナ林の下には舞茸やトビタケ(8月収穫)を植えていて、毎年とても大きなキノコが収穫できるのだそうです。どれも山ぶどうと一緒で、普通であれば山奥に行かなければ見つけられないもの。それを自宅で収穫できるなんて「孫とも一緒に楽しめるし、少し贅沢かも?」と笑顔で話してくださいました。
ブナ林の下では原木しいたけも作られているので、そちらの収穫もありますね……
冬
雪に閉ざされる冬は、やっぱり自宅前の除雪。自然の中で何かを採ったり準備したりすることがないかわりに、山ぶどうの更なる活用法や、日本一を目指す月山竹の栽培法など、書物を読むなどして研究に余念がありません。
沓澤さんが家の周りを彩る理由
沓澤さんから感じる「真室川の自然が大好き!」という印象は、取材の最中も常に変わらず伝わってきました。
沓澤さんが自宅の周りを真室川の自然で彩る理由は何なのでしょう?その答えは、沓澤さんが語ってくださった次の言葉にこそあるのかもしれません。
先祖代々はどんなふうにこの土地を求めたのかな、って。先祖からずーっと続いてきた土地だから、失くせないと思ってよ。大事にしていかなくちゃな、と思っているんだ。
だから有効に活用して、地域の皆さんと親しめればいいなーと思っています。
「自然界のものは全部サイクルでうまく絡み合ってる気がする」とも話す沓澤さんは、そのサイクルをご自宅のまわりで作り上げちゃう、真室川の自然が好きな人でした。
今後も、まむろ暮らしを楽しんでいる人を紹介していきます
真室川での暮らしを楽しんでいる人を紹介する本稿はいかがでしたか?
今後も「まむろ暮らし」では、小さな町だからこそ繋がれる人を通じて、真室川のことを紹介していきたいと思っています。
移住や定住には、自分がやりたい実現したいと思っていることを教えてくれる先輩や、実現に向けて取り組んでいる仲間と繋がれることも大事です。
「真室川に〇〇な人はいませんか?」というお問い合わせがあれば
該当する方がいれば積極的にご紹介したいと思います。
本稿と同様に、記事にして紹介もしていきたいですね!
まむろ暮らしをキッカケにして様々なご縁が生まれたら、とても嬉しいです。
取材・テキスト・動画制作 家崎耕平
編集 梶村勢至